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2024.1.26

2024年は働き方改革の岐路|企業が取り組むべきコトとは

2019年に改正された労働基準法において、時間外労働の上限が法律で規定され、一部の事業・業務についてはその適用が5年間猶予されることが明記されました。この改正は、働き方改革の一環として導入され、2019年4月から一般的に適用されました(中小企業は2020年4月から)。

適用猶予されていた事業・業務には以下が含まれます。

  • 工作物の建設の事業
  • 自動車運転の業務
  • 医業に従事する医師
  • 鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業

2024年4月からは建設業、トラック・バス・タクシードライバー、医師に対しても働き方改革の一環として時間外労働の上限規制が適用されます。

この記事では、働き方改革の目的や進行するうえで起こる可能性のあるリスク、また2024年における働き方改革の要旨を纏めています。

働き方改革とは

働き方改革は、2016年、当時の安倍内閣が「一億総活躍社会」の実現を目指して旗揚げした施策です。働く人が自身の生活スタイルや生活環境に応じた自分らしい働き方を選択し、ワークライフバランスの充実を図ることで、国民一人ひとりが活躍できる環境の創出を目的としています。

日本では少子高齢化が進み、労働力の不足が顕著化しています。また、コロナ禍で社会が変容したことにより、テレワークやリモートワークなど、働き方が多様化しました。企業は働く人(従業員)個々人の環境に対して行き届いた配慮をしなければ、十分な労働力を安定的に確保できない環境となっています。

人口減少が進む日本において効果的な労働力の確保は、社会や産業の成長に欠かせません。

働き手と企業が、お互いに働きやすい環境を創り出すことで、一人ひとりが仕事に対して前向きに取り組み、働く人が働く環境を自由に選択できる基盤を作ることが働き方改革の土台であり、働き方改革により労働力を確保することで、今後の日本社会の発展が期待されています。

労働基準法

2019年に働き方改革推進のひとつとして労働基準法が改正されました。労働基準法とは、会社が働き手に対して守るべき最低限の就労ルールを定めた法律で、労働時間、休日、休息の在り方を制定しています。 労働基準法では下記が定められています。

  • 使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
  • 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。
  • 使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。

引用:労働時間・休日に関する主な制度|厚生労働省

企業は原則としてこのルールのもと従業員を雇用しなければいけません。特別な事情により上限を超える場合は、使用者と労働者の間で労使協定(通称36協定)の締結や所轄の労働基準監督署への届け出が必要です。

36協定の在り方

前述の労働基準法で定められている原則を超える場合に使用者と労働者の間で締結する協定を36協定と呼びます。2018年の労働法改正では、この36協定を締結した場合に、時間外罰則付き上限設定として、時間外労働の上限を原則月間45時間、年360時間に設定しました。

但し、業務の繁忙や大規模案件への対応など、特別な事情を有する場合には特別条項を締結できるとされています。その際にも以下を守る必要があります。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
  • 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」が全て1⽉当たり80時間以内
  • 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度

引用:時間外労働の上限規制わかりやすい解説|厚生労働省

これらの運用ルールの適用は、業務の特性上すぐに適用が難しいとされる一部の業界において2024年3月31日まで猶予されています。言い換えると、猶予された一部の業界では特別条項を結んだ場合の時間外労働が規制されていない、ということになります。

働き方改革の目的

働き方改革は主に「人口減少による働き手の不足」「労働生産性の低下」「長時間労働の是正」という3つの問題を解消することを目的としています。

1.人口減少による働き手の不足

日本において、人口減少が進む中、働き手の不足が深刻な社会的な課題となっています。少子高齢化が顕著になっている日本ですが、数字で見るとより鮮明に理解できます。

例えば出生率でいうと、2005年は統計を取り始めて過去最低となる1.26を記録しました。

ピークは1947年の4.54ですが、その後徐々に右肩下がりに推移し、現状の1.26~1.4の間に留まっています。当然ですが、人口が増えないため、結果的に働き手が不足するという状況を招いているのです。

2.労働生産性の低下

労働生産性とは働き手一人当たりが創出する仕事の成果のことを言います。労働生産性を高めることで、働き手一人当たりの業績を向上させ、結果的にはコストパフォーマンスを向上させることに繋がります。

しかし、残念ながら日本の労働生産性は高くありません。公益財団法人日本生産性本部による『労働生産性の国際比較2022』によると、アメリカと比較して僅か6割程度であり、経済開発協力機構(OECD)加盟国38か国の中で27位という低水準となっています。この状況を踏まえ、日本は労働環境や効率を改善し、生産性向上に向けた取り組みが求められています。

3.長時間労働の是正

時間外労働の本格的な是正も働き方改革を推進する上で重要な指標になります。厚生労働省による令和4年度の調査によると年間総労働時間は0.1%微増であり、働き方改革による成果も見え始めています。

元来、働き者で勤勉な日本人の国民性もあり、平成2年時点では、月末1週間に週60時間以上就業する労働者が753万人を数えるなど、過酷な労働環境が常態化していましたが、その値も令和3年度には290万人まで減少し、労働時間の制限などにより是正の効果が出ていると言える一方で、体制の問題等で抜本的な改善に至っていない企業も存在します。

働き方改革で発生しうるリスク

企業と働き手にとって、更に、今後の日本社会の成長にとってメリットが大きいとされる働き方改革の推進ですが、推進の過程で発生するリスクもあります。

1.管理職の負担が増加する

社員の労働時間や残業時間を制御しようとした際に起こりうるのが、管理監督者(管理職)の負担過多です。一般社員や主任クラスであれば残業時間の上限が設けられていますが、管理職になると残業時間は自らが管理するケースが一般的です。

働き方改革により労働時間の制限が設定されることで、管理職以外の負担軽減は図れますが、その分管理職に負担が偏ってしまうリスクがあります。その結果、給与に反映されないサービス残業や持ち帰りの業務が増えてしまう可能性があります。

このような状況では、働き方改革が逆効果になり、管理職の働き方が悪化することが懸念されます。働き方改革は特定のグループだけでなく、組織全体のメリットを追求するものであり、管理職もその一環として均等な負担を担うことが求められます。適切な働き方改革の実現には、全ての階層が協力し、業務プロセスや文化を見直すことが欠かせません。

2.施策導入によるコスト増

働き方改革が進む中で、労働生産性の向上を目指すことは重要ですが、そのプロセスでコスト増が発生する可能性があります。

例として、会社の制度の見直しやそれに伴うシステムの導入・改修費用、働き方改革のひとつとして有給の取得を推進したことによって他の社員の業務負担が増えることなどが考えられます。

このような状況で重要なのは、働き方改革を進める際にコストをコントロールすることです。一部分だけを改善するのではなく、改善箇所が他のポイントにどのように影響するかを考慮し、全体最適の観点からアプローチすることが大切です。

3.働き手の意欲低下

働き方改革によって労働時間を管理できるようになり働きやすくなる人がいる一方で、労働時間が減少することで収入が減ってしまう人もいます。

給与体系は企業によりますが、残業代を計算して生計を立てている人やその家庭にとっては、働き方改革によって生計を立てるのが難しくなる可能性があります。給与は仕事へのモチベーションに影響を与える要素であり、働き方改革によって給与が実質下がってしまったとなると、仕事への意欲が低下し、結果的に会社として生産性を下げかねない事態も考えられます。

働き方改革を推進する際の留意点

施策を導入する際には、他社の事例を流用するだけでは十分とは言えません。自社の事業内容や規模、組織風土や組織体制、コストシミュレーションといった多角的な視野から入念に検討しましょう。働き方改革の実行を目的とするのではなく、働き方改革を通じて企業と働き手がWIN-WINとなる様、自社に見合った施策の検討と導入が肝要となります。

2024年、働き方改革のポイント

2024年は労働基準法のうち、時間外労働の上限規制適用が猶予されていた一部の業界でも施行がなされる年となります。一部の業界とは、自動車運転業、建設業、医業が挙げられます。これらの業界は、業務特性や世の中の状況などに鑑み、対応に時間がかかると判断され施行が猶予されていました。

業界・業種 適用除外・猶予の内容
自動車運転業務 改正法施行5年後(2024年4月)に、上限規制適用

適用後の上限は960時間/年 (法定休日労働を含まず)

建設業 改正法施行5年後(2024年4月)に、上限規制適用
医業 改正法施行5年後(2024年4月)に、上限規制適用

参考:時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省

働き方改革推進の一環として改正された労働基準法ですが、業種や業態によって事情が異なることが分かります。

上表の中でも懸念されているのは「自動車運転業務」です。長距離トラックをはじめとするトラックドライバーの人材不足が深刻化する日本において、労働基準法改正による労働時間の上限設定は、働き方改革によるドライバーの負担を軽減する一方、物流の停滞や乱れを招いてしまう懸念にも繋がり「物流の2024年問題」として運送業、物流業が対応を急いでいます。

今後の働き方改革のあり方

人口減少が進む日本において、今後は自動車運転業務だけではなく、全産業的な人材不足が懸念されます。働き方改革の本来の目的である、働く人が自身の生活スタイルや生活環境に応じた自分らしい働き方を選択し、ワークライフバランスの充実を図ることが実現できる様、企業と働き手の協働が今後、より大切になるのではないでしょうか。